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働き方改革の事例「 オフィス環境 、 人事制度 、 ワーカーの啓発・教育 、 経営層のコミットメント 」

日商エレクトロニクス株式会社の働き方改革事例(後編)

「適業適所」を実現し、イノベーションを創発する会社であるために

投稿日:2019-01-07  最終更新日:2019-01-07  取材日:2018-08-30

  • 会社規模(従業員数)

    1000

  • 業種

    その他

  • 対象職種

    全社員

前編では、日商エレクトロニクスが働き方改革に取り組むきっかけや、同社が先進的な施策の数々を実施してきたことなどについて伺ってきました。

後編では、さらに具体的な話に踏み込みながら、今後の展望についても、引き続きコーポレート本部・人事総務部の部長・渡邉仁志さんにお話いただきます。根拠や論理を一つひとつ積み上げるようにして推進されていく、日商エレクトロニクスの取り組み。この事例の中には、働き方改革を進めるにあたっての大きなヒントが隠されているように思います。

「残業時間の削減・生産性の向上・キャリアのデザイン」の善循環

「オフィス空間やICT投資などに力を入れられている企業さまは多いですが、御社の場合はキャリアプランも含めて働き方改革に取り組まれているのが面白いですね」

「残業時間の削減というのが、表立って叫ばれているように思いますが、残業時間を減らすのって、結局、生産性を上げていくことと同義なんですよね。そして、生産性を上げるためには、自己啓発・スキルアップやモチベーション向上など、社員のキャリアプラン形成に関わる部分にも意識を傾けていくことが大事だと思うんです」

「全くその通りだと思います!」

「ライフステージの変化やキャリアプランに合わせて適切に働き方を変えられるような、“利用価値の高い場所”を会社は提供しますよ、と。そして、“利用価値の高い場所”を提供するのだから、社員のみなさんは高いパフォーマンスを発揮してくださいね、と」

「はい」

「それと同時に、残業を減らしていくことで、社員は、“自己研鑽のための時間”や“業務改善のための時間”を確保することができるようになります。社員のパフォーマンスが向上すれば、結果、会社としての生産性も向上。自然と、業績も良くなるよね、と。そして、業績が良くなったら、それを社員に還元していこうよ、と。そんな善循環を描いていくことが目標です。“社員のやりがい・スキル向上”は、この善循環を回していくための、大切なファクターなんです。だから、キャリアプランへの取り組みも大切にしています」

試行錯誤を繰り返しながら

「ちなみに、取り組んでいく中で、ここは失敗したな、というところはありましたか?」

「いやあ、もちろんいっぱいありましたよ(笑)。でも、大きなところで言うと、部署間で温度差がありすぎたかな、というところですかね。意識がさっと変わった部署と変わらない部署の差があるというか、やっぱりその部署の責任者によるところが大きいようです。あと、この本社ビルとその他の拠点の間でも、熱量の差があったという印象を抱いています」

「やっぱり、そういった差はどうしても出てきてしまいますよね」

「それでも、今期はオフィスをフリーアドレス化し、仮想デスクトップも活用することで、どんどん“一つのオフィス”に集約化できているので、大分、部署間でのギャップは減ってきているように感じています」

「それ以外の失敗というのは…?」

「そうですね、『朝カフェ』、などですかね。朝6時から8時までの間に会社でコーヒーと美味しいサンドイッチを用意しておいて早朝からの活動を促し、定時以降の残業を減らそう、というものでした。すっごく高いサンドイッチを用意していたんですよ、会議室に! こんな良いものを用意しておけば、早朝でもみんな集まってくれて、生産的な会話が生まれるだろうと期待して。でも、実際は人がぜんぜん来なくて(笑)」

「そうなんですね(笑)」

「で、しょうがないから、朝8時より早い時間帯で、最寄駅から会社に来る途中の店だったら、スターバックスでもドトールでもコンビニでも、600円までであれば自由に使っていいよ、というふうにしました。その代わり、そのレシートを持っている人は、残業をせずに定時で帰宅してくださいね、と。会社からしたら、1時間残業代払うよりも、早朝の600円補助の方がローコストなんです

「あ、なるほど!」

「600円補助についても、最初は『モデル組織』でトライアルしていたんですけど、今年になって全社で導入したら、みんな良く利用してくれていますね。『サンドイッチの朝カフェ』の頃は利用者も少なく、人事総務部の昼飯が残り物のサンドイッチばかりになるという有り様でしたが(笑)、やり方を変えることで、ブラッシュアップされてきたんです」

「最初の失敗があってこそ、だったんですね」

生産性向上のために、朝方残業のすすめ

コワーキングスペース内のカウンター

生産性向上のために、朝方残業のすすめ

「ちなみに、当社は残業時間を削減する取り組みを色々行ってきてはいますが、一概に『残業がダメ』と言っているのではないんです

「というのは?」

「要は、『残業がダメ』というのではなく、定められた時間を超過して働くのであれば、定時後ではなく、『朝方残業』を推奨するというスタンスなんです。前の日、残業して夜遅くまで起きているよりも、朝方にした方が良い。脳科学的にも、起きてから15時間 が過ぎたら、酔っ払っているのと同程度に機能が低下すると言われています。酔っ払っているのと同じなのに、その人に25%割増しで残業代を払うのはナンセンスだよね、と。どうせ超過勤務するんだったら、次の日の朝、すっきりした状態で仕事してもらおうということです」

「なるほどなるほど、理にかなっていますね!」

「爽やかに朝出社して、爽やかに早い時間で退社する。そういったサイクルを社員のみんなが描いていけるように、この“早朝の600円補助制度”が、もっともっと活用されていけばいいなと思っています」

「本当ですね! ちなみに有給の消化についてはいかがですか?」

「そうですね。残業時間を削減させつつ、有給消化率も確実に上昇してきています。17年度は78%にまで上がりました」

「78%! それはすごい。みんな、有給をちゃんと使っているんですね」

「はい。でも、人件費は増えているんです。残業代を減らした分、ちゃんと賞与で還元していますから

「ああ〜、なるほど」

「残業代の節減分をそのまま会社の利益にはしていませんよ、と社員には説明しています。あとは、社員数も増やしています。賞与に還元し、メンバーも増員しているので、人件費総体としては、むしろ増加しているんです。 “拘束時間”に対して“残業代”という形で報酬を払うのではなく、 “頑張った成果”に対して“賞与”という形で払うようにしています。メンバーも増えて、生産性も維持・向上させながら、残業の負担を減らしていける。おかげさまで、そんな善循環を描ける仕組みが出来上がってきています」

その他の施策—、研修費、離職率、有給休暇

「あとは、研修費ですね。社員一人ひとりのキャリアアップを目的に、15年度に使った研修費と比べて、16年度は1.5倍。さらに17年度は前年の2倍。さらに今年度(18年度)は17年度の2倍などで、研修費にはかなりの金額を投資しています」

「それは、すごい! ちなみに離職率はどうなっていますか?」

「離職率は25%減です。これ以上減少すると、人材の流動性が低下するので、ほどほどのところに落ち着いてくれればと思っていますが」

「いやあ、素晴らしいですね。社員のみなさんの反応も上々なんじゃないですか?」

「そうですね。定性面の検証については、全社的な意識調査や、それぞれのモデル組織のメンバーに対して行うヒアリングによって、各施策に対する感想や意見、課題感などを把握するように努めています。例えば、サテライト勤務についてのトライアルでは、『サテライト勤務で効率が上がりましたか?』、『もう一度利用したいですか?』などと質問していきます。あとは、利用時間などもすべて定量的なデータとして取っておいて、施策ごとにしっかりと効果測定をしています」

「すごいですね。本当に先進的な取り組みをされているなと思いました。有給についても連続での取得を推奨されていますね?」

「はい。合併のタイミングと重なり、まだ完全には仕組みとして実現できていないのですが 、『○連休取ったら1万円プレゼント』というふうに、今後、有給の連続取得を推奨する仕組みを構築していきたいと思っています」

「それも先取的な施策ですね! ちなみに、合併で合流されてきた方々も、こういった取り組みには前向きなのでしょうか?」

「そうですね。ありがたいことに、合併で来たメンバーたちも自らでモデル組織を立ち上げ、彼らの価値観の中で積極的に取り組んでくれています。合併後の組織全体をマネジメントする役員が、『みんなでやっていこう!』と、自身で旗振りをしているので、周りも大いにやる気です。二つの会社がひとつになるという大切な時期。そのタイミングで、経営層が自ら旗振りをするというのは、非常に大きいことだと思っています」

在宅勤務制度について

コワーキングスペース内に傾斜をつけたスペースを用意し、社内向けガイダンスなど参加予定者外の参加も可能になっている

在宅勤務制度について

「在宅勤務制度なども、2015年以前から先進的に取り入れておられたようですが、これは、週1回までOKとか、一定の制限を設けたりしていたのですか?」

「昔は月4回までとしていましたが、2018年度からは制限を設けていません。極端な話、何日でも在宅で構いませんよ、と」

「対象者に関しても…」

「はい、制限はありません。ただし、在宅勤務をするための登録はしてもらっています。これは、労災への対策のためです。例えば、家で勤務していて、執務用の部屋とは別の空間で転んで怪我をしました、と。これは労災にあたる、あたらない? そういったややこしいことをクリアにするためです」

「なるほど」

「それから、全社員にeラーニング(※)研修を毎年受けてもらっています。それは、実際に在宅勤務制度を利用する・しないに関わらず、eラーニングというものへの理解を深め、ルールを守ってもらうためです。ちゃんとeラーニングに規定された『在宅勤務に適した環境』を自宅で実現できますか、と確認するわけですね。人事としては、そういった手続きは丁寧に踏んでいくようにしています

eラーニング(e-Learning、イーラーニング)とは、情報技術、主にインターネットを利用して行われる学習のこと。従来型の集団研修にはないメリットとして、指導者と同じ時間・空間を共有する必要がなく自由なタイミング・場所で学習できること、個人の習熟度に応じて学習のペースを決定できること、印刷教材が削減できること、などの点があげられる。

「では、管理者側として注意していることはありますか?」

「そうですね。マネジメントをする側には、徹底して成果物で評価してくださいね、と伝えるようにしています。今までのように、物理的にその人が目の届く範囲にいるわけではないので。在宅勤務で生産性が落ちた、大した成果物が上がってこない、といった場合には、イエローカードを出して在宅勤務させないという、厳格なマネジメントも時に求められると思っています

「確かに大切なことですね」

「あとは朝メール・夜メールというのも実施しています。朝に一日のタイムスケジュールを書いてもらい、一日の終わりに進捗を報告してもらう、というものです。ワークライフバランス・コーディネーター などはよくやることなのですが、ようするに、“仕事の見積り”ですよね。これくらいの仕事量なら7時間半で終わるだろうとか、終わらなかったら、その原因はなんだろうとか、毎日、計画に対しての進捗率がフィードバックされるしくみを作っています」

「これは、良い習慣ですね」

「そう、まさに習慣なんです。朝メール・夜メールは、一週間、一ヶ月といったロングタームでのワークスケジュール、仕事の組み立てを想像する機会・習慣を与えてくれます。こうした、個人レベルでの良い習慣の積み重ねが、残業時間の減少、生産性の向上、そして、自由な働き方の実現につながっていくのだと思います。

大きな課題、ペーパーレス化への取り組み

「では、次はペーパーレス化の取り組みについてお聞かせいただけますか? 働き方改革に取り組む際、多くの企業が、まず『紙が多い』という壁に突き当たることが多いと思いますが」

「そうですよねえ。当社も紙は多いです。社内ワークフローシステムや会議のシステムなど社内処理系の『情報系システム』はかなりペーパーレスになっていますが、あとは、内部統制上に関わるペーパー、つまり伝票の類ですよね。そういった『基幹系システム』では、まだまだです」

「やはり伝票などが大きな壁なんですね。会社に来ることでしか出来ない業務というのは、どうしてもありますもんね」

「そうなんです。そこが最後の砦ですね」

「電話などの取次業務もある程度、“場所”に縛られてしまう業務だと思うのですが」

「そうですね。でも、フリーアドレス化が進んできたら、代表番号などの必要性は薄れてきますよね。なので、うまく転送で回すシステムを作っておくとか、あとは、一括で受けて、不在だったらビジネスチャットでメッセージを回してもらうとか。電話に関しては、そういった仕組みでクリアしていけるかなと思っています」

『適業適所』な組織づくりを目指して

「それ以外に、今後、長期的視野に立って、進めていきたいことなどはありますか?」

「我々は『適業適所』という言葉を使っているのですが、これからは自分たちの業務に適した場所・環境で仕事をしていこうよ、ということで、とにかく生産性の向上にこだわっていきたいと思っています」

「なるほど」

「そうなると、これから考えていくべきは、『組織』です。今のような組織のあり方が、果たして、本当に適正なのかどうか。今後は、もっとプロジェクトベースで仕事を回していく機会が増えてくるでしょう。そうすると、組織のあり方も変わっていきますよね。プロジェクトベースで外部の方とも連携とりながら仕事すすめていくことも増えていきます。このようなことにも対応しなくてはならないと思います。

「従来の会社、部署という固定的な概念とは、まったく違ったイメージですね」

「そうですね。現状、4割くらいの社員が在宅勤務しているのですが、それはつまり、残りの6割の人たちは会社に来る必要を感じている(必要に迫られている)ということです。それを踏まえて、“会社に来る意義”というものを見つめ直していかなければならないと思っています。社員同士で集まってアイデアを出す場としての会社。そして、そのアイデアを共有する場としての会社。そう言った、“出社する意味”について、もう一度問い直してみる必要を感じています

「根本を問い続けるその姿勢、非常に感銘を受けました! 本日は、本当にありがとうございました」

「はい、こちらこそ。どうもありがとうございました」

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今回協力して下さった企業様

日商エレクトロニクス株式会社

設立
1969年2月24日
本社所在地
東京都千代田区二番町3-5 麹町三葉ビル
事業内容
情報通信設備、IT基盤をはじめとする国内外の最新鋭ソリューションの提供、ならびにそのシステム構築、保守、運用、監視などのサービスの提供。
従業員数
(連結)1,059名 (個別)811名 (2018年3月31日現在)
Webサイト
https://www.nissho-ele.co.jp/
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